【完】『ふりさけみれば』
夕方の産業道路は混み始めた下りの車線とは対照的に、スムーズに流れてゆく。
出来野のコリアンタウンを横目に大師河原を京急線の駅の角で右に折れ、浮島町のフェリーの乗り場が近づいてくると、頭の遥か上を羽田の飛行場を離発着する飛行機の姿が見える。
西陽は雲に遮られていたが、朱に染まった空を、鴎が羽根を陽射しで桃色に変えながら、悠揚迫らず飛んで行く。
どうなるか一抹の不安も胸中よぎらないではなかったが、
「存外何とかなるもんかも知らんな」
とひとりごち、暮れてなずんでゆく東京湾を、飽かず眺めていた。