【完】『ふりさけみれば』
部屋は白を基調にした、シンプルな普請になっていた。
「カズは執筆する場所が欲しいって話してたよね」
そういってみなみが一慶に用意したのは、まったく使っていなかったロフトの部分である。
「ここなら静かだし、窓もあるからいいかなって」
確かに。
小窓がある。
開けると、オレンジ色のナトリウムランプに照らされた、横須賀湾の夜景が見えた。
「やっぱり西陣とは景色が違うなぁ」
広島の実家も、上ヶ原の大学に通学していた頃のアパートも、上賀茂のマンションも西陣の借家もみんな一階で、一慶は高層階に住んだことがない。
「ちょっと狭いぐらいが、執筆にはえぇかも知らんわな」
一慶の荷物もロフトにまとめられてある。
「それとね」
とみなみは一慶に、
「カズに見せたいものがあるんだ」
というと、再び廊下へ連れ出した。