【完】『ふりさけみれば』
だが。
考え合わせてみると、あんまり遠出をする訳ではないし、スピードも馬鹿みたいに出す訳ではない。
むしろ。
「打ってつけかもな」
と一慶はいった。
部屋に戻ると、一慶はロフトにまず布団を敷いて寝床を確保し、そのあと机を爪先の側に置いて、それからスタンドだの万年筆だの、電子メモだのパソコンだのを出し始めた。
みなみは。
じっとその様子を見ていた。
何しろ。
小説書きの生態というのを、ほとんど見ること自体がなかったからである。
みなみも彼氏が過去にいなかった訳ではない。
が、
「作家ってどんな毎日なんだろう?」
という興味は、みなみならずとも沸いてくるものであろう。
そのとき。
一慶がみなみの視線に気づいた。
「…何か見られると調子出ぇへんなぁ」
一慶は苦笑いをしながら、音楽と書かれた箱の梱包を解いて中のアルバムを出し始めた。