【完】『ふりさけみれば』
邂逅篇
1 就職はしたけれど
いったい、
「何であんなキッツいのを、ブッキングなんてするんですか?!」
と思わず怒りでゲストのタレントが声を上ずらせてしまうほど、とにかく兵藤一慶(かずのり)という作家はあまり受けが良くなかったらしい。
というのも。
まず。
かなりの毒舌で、初対面の某という、六本木ヒルズあたりの若手の実業家を捕まえていきなり、
「実は生理的にブルジョアが苦手でして」
などと相手が怒りかねないことを面と向かって言ってしまう。
そのくせ。
生放送の本番中に腹を立てると、
「帰る」
と言って平気でスタジオを立ち去ってしまう。
しかし。
世の中は何が受けるか分からない。
そういった、
「奔放な言動が面白い」
というので、一慶が出演する番組はそこそこ視聴率がよかったらしく、
「まぁあの人は数字が取れますからね」
と編成あたりから言われてしまうと、視聴率がすべての世界なだけに、誰も抗弁は出来なかったようである。