【完】『ふりさけみれば』
かくして。
そういった様相でみなみと一慶の同棲は始まったのであるが、
「どんな暮らしなんだろ?」
というみなみの関心事は、およそ次のようなルーティンであった。
まず。
昼間はみなみの洋服を洗濯したり料理を作ったりと、まるで主婦のような働きをする。
その合間に仮眠も取る。
みなみが帰ると食器の洗浄やら何やら家事があり、みなみが寝てから一慶は執筆にかかる。
ときに明け方の三時ぐらいまで書いて、また仮眠を取って起きて家事が始まる。
つまり。
執筆の合間に仮眠を取り、さらに隙間にテレビの仕事を、一慶は入れていたことになる。
意外にも多忙であった。
当然ながら。
執筆はというと日に数十枚進む日もあれば、書くというより石に字を刻むような苦渋に満ちた顔つきで数行ようやく書き進む…といった日もある。
みなみは当初、時々一慶の好きなチャイを淹れたりもしたが、
「あんなに鬼気迫る空気を出されたら、ちょっと近寄り難いかも」
とのちに恵里菜にこぼし、遠巻きにロフトの登り口にかつて、一慶が手ずから清水焼の窯場で焼いたカップを、そっと置くようになった。