【完】『ふりさけみれば』
しかし、である。
机に向かい、ひたすら執筆をしているときの一慶の横顔が、みなみは最もいとおしかった。
眼差しが真剣なのもある。
それ以上に。
一人の男がまさに、命懸けで何事かに取り組むその面構えは、それまでみなみが出逢った他のどの男にもない、静かでありながら決死で何かと斬り結んでいるような、気魄めいたものを感じたからである。
また。
武骨で、ともすればふてぶてしくすら見えてしまう、一慶の風貌から全く予想もつかない文体も、みなみは読んでいて心地が良かった。
なぜなのかは分からなかったが、どことなく品がある。
特段。
難しい漢語を遣う訳ではない。
が。
読後が爽快なのである。
そういった面も、みなみは引っ括めて一慶に好感を抱いていた。