【完】『ふりさけみれば』

そうした恵里菜の長所がみなみにはなかったので、

「恵里菜ってさ、入局の頃からだけど器用に何でも出来るよね」

思わず本音が出た。

「私は天才なんかじゃないよ」

「そぉ?」

「私だって、一応それなりの努力はしてるんだよ」

「そうなんだ?」

「前にいたアイドルの世界が、努力のない子は勝ち残れなかった世界だから」

「あ、そっかぁ」

そういえば。

恵里菜は十代の頃、アイドルのグループに在籍していたことがある。

ファンの間での人気は高かったものの、メンバーの中ではあんまり目立たない存在で、

「だからワイプにどう映るとか、短いコメントでどう惹き付けるかとか、そんなことばっかり考えてた」

「そうなんだ」

「でもさ、みなみは私の持ってないものを持ってるから、逆に羨ましくて」

「私?」

「だってみなみって函館って帰れる田舎もあるし、兵藤さんって理解者もいるしさ」

みなみは何気なく黙ったままであった。



< 204 / 323 >

この作品をシェア

pagetop