【完】『ふりさけみれば』
そうした恵里菜の長所がみなみにはなかったので、
「恵里菜ってさ、入局の頃からだけど器用に何でも出来るよね」
思わず本音が出た。
「私は天才なんかじゃないよ」
「そぉ?」
「私だって、一応それなりの努力はしてるんだよ」
「そうなんだ?」
「前にいたアイドルの世界が、努力のない子は勝ち残れなかった世界だから」
「あ、そっかぁ」
そういえば。
恵里菜は十代の頃、アイドルのグループに在籍していたことがある。
ファンの間での人気は高かったものの、メンバーの中ではあんまり目立たない存在で、
「だからワイプにどう映るとか、短いコメントでどう惹き付けるかとか、そんなことばっかり考えてた」
「そうなんだ」
「でもさ、みなみは私の持ってないものを持ってるから、逆に羨ましくて」
「私?」
「だってみなみって函館って帰れる田舎もあるし、兵藤さんって理解者もいるしさ」
みなみは何気なく黙ったままであった。