【完】『ふりさけみれば』
ワインに恵里菜は口をつけた。
「じゃあ訊くけど、みなみって兵藤さんの元カノとか過去とか、どのぐらい把握してる?」
いわれてみれば。
「ほとんど知らない」
そもそも。
みなみは一慶の過去を穿鑿(せんさく)しようとしたことはなかった。
一慶も訊かない。
それに。
一慶は訊かれたことは答える。
が。
それは逆に。
みなみから訊かれない限り、答えることもない。
「それじゃ、何かあっても分からないじゃん」
まさしく。
恵里菜のいう通りであろう。
そこで。
みなみはようやく腑に落ちたようで、
「訊いたら話してくれるかなぁ」
「それは分からないなぁ」
だって兵藤さんじゃないから、と恵里菜は細身の肩を小さくすくめた。