【完】『ふりさけみれば』

ワインに恵里菜は口をつけた。

「じゃあ訊くけど、みなみって兵藤さんの元カノとか過去とか、どのぐらい把握してる?」

いわれてみれば。

「ほとんど知らない」

そもそも。

みなみは一慶の過去を穿鑿(せんさく)しようとしたことはなかった。

一慶も訊かない。

それに。

一慶は訊かれたことは答える。

が。

それは逆に。

みなみから訊かれない限り、答えることもない。

「それじゃ、何かあっても分からないじゃん」

まさしく。

恵里菜のいう通りであろう。

そこで。

みなみはようやく腑に落ちたようで、

「訊いたら話してくれるかなぁ」

「それは分からないなぁ」

だって兵藤さんじゃないから、と恵里菜は細身の肩を小さくすくめた。



< 206 / 323 >

この作品をシェア

pagetop