【完】『ふりさけみれば』
その翌週。
みなみが番組のスタジオに入ると、
「橘ちゃん、今日出た週刊誌やけど見た?」
と、かつて情報番組の頃に一緒であった、落語家の浪花家贅六とひさびさに言葉を交わす機会があった。
「贅六師匠、ご無沙汰してます」
みなみは深々と頭を下げた。
「そんな細(こま)い話、気にせんでえぇがな。それよかコレ」
と出したのは、一冊の週刊誌である。
「ここ、見てみなはれ」
綺麗な船場言葉で示された先には、
「作家・兵藤一慶がギャルと足しげく通う秘密の場所」
という見出しと共に、明らかに女子高生といった感じの制服姿の女の子と歩く姿が撮影されていた。
しかも。
撮影されたのは原宿である。
「まぁ渋谷の円山町あたりなら浮気かなって思うねんけど、原宿ってのがこれまた謎やな」
贅六師匠に言わせればそうであろう。
「まぁ真実は本人に訊かな分からんから、次会うたら訊いとくわ」
軽い会釈でその場は終わったが、
「…やっぱり訊いてみないとダメかな」
とだけ呟いて、みなみは渡されていた原稿の最後の下読みを始めた。