【完】『ふりさけみれば』
その夜。
帰宅すると一慶が変わらずキッチンで料理をしている。
「あ、みなみお帰り」
一慶はパセリを刻んでいた。
「あのねカズ」
「ん?」
そこへ。
例の週刊誌をみなみは放り投げた。
「…そっか」
「カズは若い子が好きなの?」
みなみの声は、極めて冷静であろうとしていたのか、少し上ずっている。
「…別に隠すつもりではなかったんやけど」
そういうと一慶はコンロの火を止め、パセリを刻む手を置き、
「実はみなみに、ちゃんとした話があんねん」
覚悟の決まった顔でいった。
しばらくして。
ロフトから出してきたのは、何やら入った封筒である。
「これは兵藤家の戸籍やねんけどもな」
みなみが披(ひら)いた。
「廣島縣廣島市江波栄町」
とある古めかしい資料を見ると、
「不明」
と一慶の実父の欄にある。
「別にいうほどの話でもないかなと思ってたんやが、この際やから洗いざらい話したほうがえぇかなって」
そういうと、ページをめくった。