【完】『ふりさけみれば』

その夜。

帰宅すると一慶が変わらずキッチンで料理をしている。

「あ、みなみお帰り」

一慶はパセリを刻んでいた。

「あのねカズ」

「ん?」

そこへ。

例の週刊誌をみなみは放り投げた。

「…そっか」

「カズは若い子が好きなの?」

みなみの声は、極めて冷静であろうとしていたのか、少し上ずっている。

「…別に隠すつもりではなかったんやけど」

そういうと一慶はコンロの火を止め、パセリを刻む手を置き、

「実はみなみに、ちゃんとした話があんねん」

覚悟の決まった顔でいった。

しばらくして。

ロフトから出してきたのは、何やら入った封筒である。

「これは兵藤家の戸籍やねんけどもな」

みなみが披(ひら)いた。

「廣島縣廣島市江波栄町」

とある古めかしい資料を見ると、

「不明」

と一慶の実父の欄にある。

「別にいうほどの話でもないかなと思ってたんやが、この際やから洗いざらい話したほうがえぇかなって」

そういうと、ページをめくった。



< 208 / 323 >

この作品をシェア

pagetop