【完】『ふりさけみれば』
みなみにしてみれば。
まさか自分の恋人も、自身と同じように里親に育てられていたとは想像もつかなかったであろう。
「で、一番いいたいのはここや」
と指で示したのは、
「愛」
と書かれ、さらにそこには抹消をあらわす×の印がついていたのである。
記入欄には、
「参月拾五日生」
とあり、続柄には長女とあった。
すなわち。
一慶には高校生になる娘の存在があったのである。
みなみの脳は、混乱を来していた。
半分はてっきり浮気か何かで、それがバレたから別れ話でもするのかと思い込んでいたふしも、ないではなかった。
しかし。
浮気ではなかった。
過去に結婚していた訳でもなかった。
それ以上に。
一慶の背負っているものが、みなみの想定をはるかに上回る重たいものであったであろうことは、容易に察せられた。