【完】『ふりさけみれば』
やはり新幹線は小田原のあたりで徐行しており、京都に着いたのは定刻より三十分ばかり後である。
すると。
連絡しておいた三両目の乗り口に、スーツ姿の一慶が待っている。
乗り込んできた。
「街頭テレビでやっとったけど、えらい雨やったん違うか?」
という一慶は、グレーのヘリンボーンの三つ揃いのスーツのうちジャケットだけをベージュのブレザーにし、靴や小物は茶色系で統一してある。
「宝塚の劇場やから和服は度胸要るしやねぇ」
苦笑をしていたが、
「いやぁ吉岡くんに頼んで正解やった」
「…?」
みなみはきょとんとした顔をした。
一慶がいうには、
「橘くん関西は勝手が分からんやろから、うちの編集者がたまたま大阪まで出張やし」
ものはついでで頼んだ、といったのである。