【完】『ふりさけみれば』
3 愛
妙に冷静な面が、一慶にはある。
「まぁ言わんかったうちも悪いけど、何よりみなみにだけは、迷惑はかけられんかった」
といって、
「親にも下げたことのない頭やけど、この通り」
というや、パッとみなみの足元に身を翻し、深々と土下座をしたのである。
一慶は何もいわなかった。
無言で。
額をフローリングの床につけ、みなみの言葉を待っているようであった。
みなみも、黙っている。
どうしたらよいのか、分からなかったらしい。
が。
重くなっていた口を開いた。
「それはさ、カズが悪い訳じゃないよね?」
みなみは、
「とにかく、理由が知りたいの」
といった。
一慶は手をついたまま、
「それは言い訳にしか聞こえんやろから」
といった。
が。
「一人で背負うより、私と一緒に二人で背負ったほうが、間違ってないような気がする」
いつの間にか。
あんなにすぐ泣くはずであったみなみは、たくましくなっていたらしい。
「…分かった。ちょっと長くなるけど」
そういうと、一慶はロフトのトランクから小さな手帳を引っ張り出してきた。