【完】『ふりさけみれば』
唐突ながら。
話はさかのぼる。
「まだ京都に住んで、すぐぐらいの頃やけど」
当時、大学を出たてで規模の小さいタウン誌の駆け出しのライターでしかなかった一慶には、付き合っていた彼女があった。
「まぁ、結婚は念頭になかったやね」
そのときは。
まだ若かったのもあって、普通に交際して普通に破局して、その程度であったらしかった。
かなり遊んでもいたようで、
「まぁよう取っ替え引っ替え言われとったけど、別れたら次の子に乗り換えてただけって感じやったからなぁ」
しかし。
歯車が動き始めたのは数年後で、児童の養護施設を取材した際、その彼女とよく似た幼稚園ぐらいの女児を見かけた。
「名字が森高って珍しいのやから、すぐ分かった」
施設の職員に尋ねると、果たして愛は彼女の娘で、しかもどうやら別れたあとに妊娠が分かったという話であった。
だが。
その後、出産してほどなく彼女は産後の肥立ちが悪かったらしく、
「亡うなってもうたらしくてやね」
さらに三条大橋に捨てられていたのを、施設で保護したらしい。
もっとも一慶はそうした経緯はいっさい知らず、のちにそのような形で真相を知ったようであった。
そこで。
養女にするのは金銭的に難しかったので、愛に勉強を教える一人のボランティアとして、愛と関わることにしたのである。