【完】『ふりさけみれば』

一慶は愛に勉強だけを教え、あとはなるだけ交流を持たないように気をつけていた。

が、愛は違う。

「カズ兄ちゃんって、彼女いるの?」

という愛の一言から変わり始めたといっていい。

「おるで」

「そっかぁ…」

はじめはその程度であった。

が。

バレンタインの日に愛からチョコをもらったのだが、

「カズ兄ちゃんへ」

と書かれたメッセージのカードには、

「つきあってください」

とあった。

当たり前だが。

一慶は、愛とは付き合う訳に行かない。

断った。

「ごめんな、彼女おるから無理やねん」

確かにその時期、別に彼女はいた。

だから間違ったことは言ってない。

すると。

「…じゃあさ、お願いしていい?」

「何を?」

「…フラれる前にさ、一度だけでいいから、私の願いを叶えて欲しいの」

「…えっ?」

このときほど。

一慶が困り果てたこともなかったらしい。



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