【完】『ふりさけみれば』
海は思ったより風で苛波(いらなみ)を立てていた。
やがて。
正面に朱塗りの大鳥居が見えてくると、島で風が遮られたのか、静かに凪いでくる。
船の中は日本人より外国人が多くあったようで、耳で拾えたのは英語と、単位で取ったイタリア語ぐらいであったが、見た目からマレーシアあたりや、あるいはドイツ語のような声も聞き取れた。
桟橋に着くと、船から吐き出された群衆は参道を厳島神社のほうへと歩いて行く。
が。
みなみは抗うように立ち止まった。
何となくではあるが、人が空いたほうが探しやすい、と思ったのであろう。
力に聞いた通り、海沿いの参道を歩いて行くと、大鳥居のよく見える角にベンチがあって、そこに見覚えのある後ろ姿が座っていた。
「カズ!」
振り向いた。
やっぱり。
力がいってた通り、一慶がいる。
「見ーつけたっ!」
「…えらい遠くまで来たなぁ」
冗談めかしていった。
「ここは?」
「…うちが拾われたのが、どうやらここらしい」
それを厳島の巫女が見つけ、神職の伝(つて)で兵藤家に迎えられたらしかった。