【完】『ふりさけみれば』
つまりは。
作家としての足場を固め、そこから着実に居場所を作ろうとしていたところに、みなみと出逢った…ということになる。
みなみは自分が一慶の人生を変えてしまったようで、申し訳なさそうな面持ちになったが、
「他の外野が何をいうかは分からんけど、うちは正直みなみでないと嫌や」
ずいぶん思い切ったことを一慶はいった。
同時に。
一慶はみなみの手を握った。
「まぁこんなんやけど、ずっと隣でおってくれたら嬉しいなぁ」
素直に口から出た。
「一人でどうもならんことも、二人ならなんとかなるのとちゃうかな」
一慶にすれば恐ろしく率直に放胆なことをいった。
常に間を取り、何事にも騒がず、何者にも慌てず、間を詰めて接近することをしなかった一慶が、である。
みなみには新鮮な驚きで、
「何でもカズは抱え込んじゃうから」
とみなみは、そこで初めて笑顔になれた。