【完】『ふりさけみれば』

翌朝。

「ちょっとつれて行きたい場所があんねんけど」

と宮島の旅館をチェックアウトし、宮島口からしばらく乗って土橋で乗り換え、江波の終点で降りると、皿山へみなみと一慶は登った。

といっても。

石段で登ってゆくから、本格的な登山というようなレベルではない。

段を登り切ると、広場があって視界は開けている。

皿山から町の方角を見下ろすと、屏風のように立て回された山並みを背後に、ビルやマンションがミニチュアの建物のごとく眺め渡され、ビルの隙間からわずかながら鯉城の森も見えた。

背後へ振り向くと。

眼下にはきらきらと陽射しに照らされた広島湾が広がり、その先には似島や安芸小富士、さらには小さく、今朝まで過ごしていた宮島や、名前のわからない霞んだ島々が、点々と散りばめられている。

「街はすっかり開けよったけど、ここだけは変わらんなぁ」

川を挟んで隣の、工場の向こう側の飛行場から、真っ白なセスナが青空へ離陸して行く。

「いい場所だよね」

みなみはいった。

「えぇやろ」

一慶は小さく頷いた。

みなみと一慶の頭上を、飛行機雲がスッと一筆描いて行く。

雲の行方を、みなみは目で追っていた。



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