【完】『ふりさけみれば』
ミュージカルの演目はウェストサイドである。
みなみは初めて見る舞台に少し緊張していたらしいが、慣れてくると周りに目が行くようになった。
隣を見た。
一慶は劇中の曲を知っていたのか、小さくリズムを刻んでいる。
そうしてみなみも食い入るように歌劇を見ているうち、クライマックスの決闘のシーンになると、
「やっぱりバーンスタインの音楽はえぇなぁ」
といいながら楽しんでいる一慶の姿があった。
歌劇が終わると休憩を挟んでレビューで、羽をつけた男役が大階段を降りて華やかに舞台で歌い上げる。
「あの子が秋月さんの後輩の結崎(ゆうさき)なぎさ」
娘役でもいわゆるセンターではなく、まだ初公演だからか端に近い。
三時間の公演はあっという間であった。