【完】『ふりさけみれば』
ただ。
みなみの例の中華街の話も、まったく空気を読まなかったという点では同類で、
「橘みなみの秘密兵器」
という見出しで、すでにネットニュースはざわついていた。
しかも。
折も折で。
相手はポスティングでメジャーに挑戦する浅香徹である。
たちまち。
口さがない週刊誌やタブロイドあたりなんぞは、
「松田恵里菜VS河原崎美珈、メジャーリーガー争奪の肉弾戦」
などという生々しいタイトルをつけ、それで売り上げを伸ばす商魂のたくましさを見せていた。
恵里菜が仔細を知ったのは、取材で最有力の候補地があるニューヨークから帰朝したあとである。
「恵里菜ごめんね」
「いや、私は構わないんだけど…トオルがね」
むしろ。
ポスティングでナーバスになっていた球団の怒りの矛先は、みなみより当事者の河原崎美珈に向いた。