【完】『ふりさけみれば』
それとないかたちで翌日、みなみは一慶に梨沙と話した内容をいってから、
「それで京都でリフレッシュしてみたらって」
「旅かぁ」
まぁ考えてみるわ、とだけ一慶はいってから、
「うちにしてみれば横須賀におるのが、旅みたいなもんやけどな」
「…カズは鎌倉とか行ったことある?」
「鎌倉は震災の疎開先やったけど、それ以来やな」
ここで一慶がいう震災とは阪神大震災のことである。
一慶は大学の二回生で、当時ちょうど後期の試験の直前といった時期に西宮で被災した。
そのため。
一時期だが、後輩の実家がある鎌倉に住んでいたことはある。
「あの頃は不安やったから、せいぜい材木座の海岸でぼんやりするのがオチやったけどな」
「じゃあ今度、鎌倉デートしようよ」
珍しくみなみがねだった。
「みなみがえぇならうちはえぇよ」
西陣の頃のセリフが久々に出た。
それだけで。
みなみは一慶が少し明るくなったような気がした。