【完】『ふりさけみれば』

それとないかたちで翌日、みなみは一慶に梨沙と話した内容をいってから、

「それで京都でリフレッシュしてみたらって」

「旅かぁ」

まぁ考えてみるわ、とだけ一慶はいってから、

「うちにしてみれば横須賀におるのが、旅みたいなもんやけどな」

「…カズは鎌倉とか行ったことある?」

「鎌倉は震災の疎開先やったけど、それ以来やな」

ここで一慶がいう震災とは阪神大震災のことである。

一慶は大学の二回生で、当時ちょうど後期の試験の直前といった時期に西宮で被災した。

そのため。

一時期だが、後輩の実家がある鎌倉に住んでいたことはある。

「あの頃は不安やったから、せいぜい材木座の海岸でぼんやりするのがオチやったけどな」

「じゃあ今度、鎌倉デートしようよ」

珍しくみなみがねだった。

「みなみがえぇならうちはえぇよ」

西陣の頃のセリフが久々に出た。

それだけで。

みなみは一慶が少し明るくなったような気がした。



< 235 / 323 >

この作品をシェア

pagetop