【完】『ふりさけみれば』

話は続きがあった。

「あの頃は仲間も何人か犠牲になったし、せやからうちが生き残ったのは、ほんの偶然にしか過ぎんからやね」

事実。

一慶や力と仲のよかった仲間のうち二人は犠牲になり、サークルで知り合った寺の息子の医学生は、研修医を終えると無常を感じたのか、和歌山の実家の寺に戻ってしまったのである。

「あいつらの分まで生きなあかんってのも、ないではないけど、死んだら何にもいわれへんからね」

いわずに死ねるか、というのが偽らざる心中であったらしい。

「あ、それで」

テレビであれだけ毒舌を奮っていたのかも知れない、とみなみは気づいた。

「ただの毒舌じゃなかったんだね」

「…今さらかい」

一慶はみなみの肩を、指で軽く小突いた。

それにしても。

材木座の海岸といい、一慶の飄々とした物言いといい、中味の重い話柄の割には妙にさわやかではある。

みなみはそこだけ不思議に感じたが、

「軽い話は重く、重く話は軽くやがな」

そうやって無用の気苦労をさせまいとする。

みなみの見る限り、一慶という男は、多分に考え過ぎてしまうのかも知れないという風に映ったらしかった。




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