【完】『ふりさけみれば』
材木座から、みなみと一慶は海沿いに飯島のトンネルを潜り、逗子のマリーナを後にやって、森戸の浜辺に着いた。
陽は少し傾いて、名島の影は濃くなり始めている。
「私も函館だから海は好きだけど、それより私は空が好きかな」
一慶は見上げた。
青く、弓なりに隆(たか)く、丸く、薄絹のような更紗の雲を薄く、刷毛で引いたがごとき空である。
そこへ。
鳶か隼か、翼を広げて悠揚迫らず、はるか天を滑って行く。
「前にさ、広島行ったじゃん」
「せやな」
「あのとき、丘の上から見た空も綺麗だったな」
「気にしたことなかった」
「あの空はあのとき、きっと函館のうちが見ていた空と繋がっていたと思う」
一慶はみなみの言葉にハッとした。
「そうか、空が居場所か」
「きっとそうだよ」
みなみは一慶に寄り添った。