【完】『ふりさけみれば』
夕暮れの逗子の街は、朝の静けさとは真逆な賑やかさを見せていた。
再び。
タンデムである。
次はみなみが運転して、もと来た道を、横須賀まで帰る。
一慶は久しぶりに後部に座った。
「女の子の後に乗るなんてはじめてやがな」
一慶は照れ臭そうにしていたが、みなみの腰に腕を回している。
出逢った頃、あんなに泣き虫であったはずのみなみは、今ではバイクを取り回している。
「すっかりみなみも、たくましくなったなぁ」
「カズが強くしてくれたんだよ」
沼間のトンネルを抜けた。
もうすぐ田浦で、国道を右に入ると、逸見も近い。
「贅沢いわしてもらうと、次は桜の満開の時期に乗りたいな」
一慶が珍しいことをいった。
「どうしたの?」
「いや、何となくやて」
はぐらかすまでは行かないが、はぐらかす理由は分からない。
「カズ変なの」
「変なのは昔からや」
ヘルメットの奥で、一慶は笑っていた。