【完】『ふりさけみれば』
数日、過ぎた。
みなみが眠っている間に、一慶は徹夜で原稿を書いていたようで、
「…書けた」
とだけ小さく呟いた。
午後、吉岡が原稿用紙を受け取りに来たのだが、
「…ようやくスランプ脱出しましたね」
「さよか」
「こんなにハラハラさせられたのは初めてです」
吉岡はチェックしながら、
「今度は長編書いてくださいね。読者からリクエストかなりあるんですから」
「まぁ考えとくわ」
「またそうやって逃げようとする」
「何やバレとんのかい」
一慶は小さく舌を出した。
「そんなテヘペロってされても」
「まぁオッサンやから可愛くはないわな」
構想だけはある、といい、
「あとは書き出しと結末が決まれば、何とかなんねんけどなぁ」
才能の枯渇やな、と一慶はいつものように煙に巻いて見せたのであった。