【完】『ふりさけみれば』
7 夜の祭礼
梅雨が来た。
それまで京都で、蒸し暑い夏を長いこと過ごしてきた一慶は、
「こっちは海風があるから涼しいなぁ」
と、根城のロフトにミニサイズの可愛らしい扇風機を持ち込んで、糊のパリッと効いた友禅のアロハシャツという、西陣の頃と変わらない姿で、普段使いの京団扇をばたつかせている。
寒い時期はみなみと一緒のベッドで寝もするが、
「夏は別がええやろ」
みなみかて暑がるやろし、と雪国育ちのみなみを逆に心配していた。
みなみはみなみで。
クーラーで風邪を引くのがよほど嫌であったものか、やはり扇風機を使う。
糊を効かせてあるのをみなみは不思議がったが、
「こうすると肌にまで風が抜けて涼しいねん。まぁ、先達の叡智ってやつやな」
一慶がいうと、みなみはクローゼットの肥やしになっていた流行遅れのブラウスで試してみた。
着てみると、風が胸元まで通る。
「これ、番組で企画にしてみていい?」
「そんなん、みんな普通に知っとるんとちゃうかなぁ」
一慶は怪しんだが、みなみは局内で新人のアシスタントディレクターの女の子で試した実験を企画書にしてみたのである。