【完】『ふりさけみれば』
この時期になると。
気持ちが少しずつ変容していたのは、確かなのであろう。
そんななか。
「たまには二人で、旅でもしてみるか」
珍しく一慶が誘ってきた。
聞けば。
「今年の厳島の管絃祭な、うまいこと休みにハマったんやけども」
管絃祭。
みなみは存在すらまったく知らなかった。
しかし。
「祭にしては珍しく、夜に灯りを点しながら船で音楽を奏でる」
という一慶の解説に、みなみは興味が湧いた。
調べてみると。
かなり古くからの神事で、平清盛が時代劇よろしく生きていた源平の昔には、既に始まっていたらしい。
「あの祭だけは、原爆に負けなかった」
という話もある。
しかも。
一慶の地元の江波地区からは、祭礼の船も出す。
実際、中学の頃に一慶も乗り組んで、奉祀に参加したことがあったらしく、
「あれは綺麗やから、一度みなみに見せてやりたい」
と前にいっていたこともあった。
「見てみたいな」
みなみがスケジュールを手帳で繰ると、
「空いてるから有給休暇使うよ」
といった。