【完】『ふりさけみれば』
宮島口から連絡船に乗る頃、祭礼は始まっていた。
本殿を発った御座船は高張提灯に照らされ、宵闇の迫る凪いだ波の上を進んで行く。
「お、着いたで」
宮島の桟橋は既にカメラを手にした観衆や、浴衣のカップルで混み始めていて、はぐれないように、みなみと一慶は手を強く繋いで歩いた。
「昼間とは違うね」
「夜もなかなかえぇやろ」
大鳥居の浜へ来ると、遠くに御座船と供奉の船が煌めいている。
「あの船が戻ってくるときがクライマックスや」
その最高の瞬間を見ようと人垣が出来て行く。
やがて。
しばらく待っていると、御座船が近づいてきた。
「もうすぐやな」
御座船は静かに大鳥居をくぐってゆく。
船の上では装束をつけた伶人が雅楽を鳴らしているのか、篳篥や笙、龍笛の音がする。
御座船には提灯が吊られ、波に揺れながらきらきらと伶人の装束や楽器を耀かせていた。
「なんかすごい綺麗だね」
大鳥居を過ぎた御座船は、本殿の前の桝形まで来ると回り始めた。