【完】『ふりさけみれば』
御座船を操る漕手(こぎて)は、
「ヤーレーサ、ヨー」
と合図の声を放つ。
声に合わせて静かに旋回し始めた御座船は、雅やかな調べを奏でながら、提灯やぼんぼりに明々と照らし出された朱塗りの本殿の前で舞うように回る。
「きれい…」
動画をカメラで撮っていたみなみは、見惚れるように眺めていた。
そこには。
みなみや一慶が生まれる遥か前から、悠久の時空を紡いできた人々の祈りをあらわした形がある。
「カズは私の知らない世界から来たんだね」
みなみは不意に呟いた。
「うちかて女子アナなんて世界は、みなみに出逢うまで知らんかったで」
一慶はいった。
祭が終わりに近づいた頃、社務所でみなみと一慶はお揃いの御守を色違いで買った。
もうすぐ、最終の船が出る。
「戻ろっか」
「うん」
賑やかな出店が並ぶ参道を、みなみと一慶は再び強く手を繋いで歩き始めた。