【完】『ふりさけみれば』

異変に気づいた秋月しおんは、

「もしかして…橘さん、お腹に」

「…大丈夫です、すいません秋月さん」

みなみは気丈に振る舞おうとした。

が。

「橘さん、出来たでしょ」

「…はい」

隠しおおせるほど心の余裕はなかった。

「よかったじゃない」

取り敢えずどこか座りましょう、と秋月しおんは自らの楽屋まで、みなみを介抱しながら歩いた。

楽屋で秋月しおんは、

「私はね橘さん、子どもが産めない身体なの」

「えっ…」

みなみは耳を疑った。

「私の場合、結婚してから子宮頸癌で摘出してしまったから、もう産めないの」

「秋月さん…なんか本当にすみません」

みなみは謝った。

「謝ることなんかじゃないわよ」

その頃には、みなみもようやく落ち着いてきた。

「最初はもちろん、受け入れられなかったわよ。でもね、産めるのは当たり前じゃないの。奇跡なの」

さまざまな苦難を身を以て得たであろう言葉に、みなみは素直に頷いた。

「だから、もし相手が産むなって反対しても産んで、子供を立派な大人にすればいい」

秋月しおんの偽らざる思いであったらしい。



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