【完】『ふりさけみれば』
すると一慶は、実に思い切ったことをいった。
このときの一慶ほど、
──人間は見切りが肝心や。
と口癖のようにいっていたことが、そのままになったことはなかったであろう。
「よし、入籍しよか」
「えっ?」
みなみの方が逆に戸惑ったような顔をした。
「実はな」
というと、一慶はポケットから水色の小箱を取り出した。
「こないだみなみの指輪のサイズ聞いたやん?」
それが。
「カズ、これって…」
みなみの前に一慶は膝まづいてから、
「うちは、みなみでないと嫌や」
強く、鋭く、熱を帯びた眼差しで、はっきりといった。
いつもの笑わせるようなそぶりはない。
さらに。
すっと出てきたのは、一輪の真っ赤なバラである。
「こんなキザなこと好かんねんけど、一生に一度だけやし、みなみやったら許してくれるかなって」
「もう、カズったら…」
みなみの目からは、涙が溢れて止まらなかった。
「…こちらこそ」
睫毛は涙で濡れていたが、みなみは笑顔になった。