【完】『ふりさけみれば』

年末が近づいている。

十二月に入り、一慶は大晦日の歌番組の審査員に抜擢された。

「来年の大型ドラマの原作者」

としてである。

みなみは首をかしげた。

「あれってだいたいが時代劇だよね?」

対して。

一慶の回答は明快であった。

「ずいぶん昔に書いた長編が、ドラマの原作らしいんやけどね」

そういえば。

一慶には長編が二本ある。

そのうちの一つは、以前に一慶が、

「こういう本が読みたかってんけど、出てへんかったから、ほな自分で書いたれって書いた」

といっていたものであったらしい。

ともあれ。

一慶という人はそういう人なのである。

かなり気を配るくせに、内実かなりのわがままでもある。

それでいて。

みなみをまるで大切な宝物でも扱うかのように、たまに異常なほどあちこちに目を配る。

みなみは、

「そんなこと気にしなくたって大丈夫だよ」

というのだが、

「いや、ここでトラブルの芽は摘んどかんとあかん」

と一慶は動いてしまう。

ナーバス、というほどではないが、

「気にしい、やね」

などと自嘲気味にいう。

それは。

割と大雑把な面があるみなみとは、うまい具合に補完しあっていた。



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