【完】『ふりさけみれば』
しばらく経って。
みなみのお腹が目立ってきた頃、子育てに不安を漠然と感じていたらしい空気を察知してか、
「生まれたらみなみらしく育てりゃえぇ」
と一慶はいったことがあった。
「私らしく?」
「せや、みなみらしくや。みなみは四角い器に丸い蓋をするところがあるけど、それでえぇのや」
最初は誉められてるのか貶されてるのか分からなかったが、
「四角い器に四角い蓋をしたら、中が窒息してダメになってまう。丸い蓋で多少は抜けが出るようにするのが、ゆとりってやっちゃな」
「でも…」
「うちはな、みなみのそういうところが気に入ったから、みなみでないとイヤやっていうたんや」
どうやら。
何も見ていないようで見ているのが、一慶という人らしかった。
そういえば。
前に一慶が靴だけでスタッフが出世するかどうか見抜いたことを思い出し、
(見る目は持ってる)
ということを再認識させられたのであった。