【完】『ふりさけみれば』

横須賀に桜の季節がやって来た、と分かるのは逸見の駅に植えられた染井吉野である。

「いよいよ咲いたか」

毎回出掛ける最寄りの駅に桜が咲くと、一慶もなんとなく気持ちが明るくなるようで、

「こういうのを見ると、まぁ贅沢な話やけど常照皇寺の桜がまた見たくなる」

出掛けたろかな、と呟くと、

「カズ行ってきなよー」

すでに身重のみなみはいった。

「私は…ま、今は行けないけどね」

クスッとみなみは笑った。

「おみやげよろしくね」

「おぅ」

翌朝。

いつもの真っ赤なドラッグスターで、一慶は京都を目指して出発した。

途中。

休憩するたびに一慶から写真つきでメールが来る。

みなみがうとうとしていると、

「これから高速に乗る」

とあって、緑色の高速道路の看板が写っていた。

夜になると。

「今夜は名古屋で泊まります」

とあって、名古屋の城の天守閣が写っている。

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