【完】『ふりさけみれば』
京都に着いたのは翌日の午後で、
「久しぶりの京都」
というタイトルで、三条大橋が写っていた。
みなみと一慶が知り合ったばかりの頃、よく待ち合わせた橋でもある。
「あの時期から、うちらは変わったような気がするなぁ」
みなみは独り言を小さくついた。
他方で。
一慶は北山から常照皇寺を目指した。
真っ赤なドラッグスターが、洛北ののどかな山あいを鋭く切り裂くように走る。
やがて。
日が傾いてきた。
山門の手前でドラッグスターを停め、カメラを手に歩いた。
少し肌寒い。
が。
目指す桜の巨樹の前まで来ると、
「…みなみに見せたかったなぁ」
とシャッターを切った。
そこには。
満開に、今が盛りといわんばかりに咲き誇る桜が枝を広げ、淡紅の霞をまとったように暮れかかる山々の中から浮かび上がっていたのである。
「…今年はタイミングぴったりやったな」
一慶は写真をみなみに送信した。
数分後。
みなみの携帯電話に、撮影した桜が送られてきた。
タイトルには。
「子育てが落ち着いたら、京都で暮らそう」
とある。
「そだね」
みなみは返事を打った。