【完】『ふりさけみれば』
リクエストで一慶の馴染みだという梅田のバッテラ屋に寄って、二つばかり箱寿司を買うと、
「凹んでるみたいやから、どこぞ眺めのえぇとこでも行こか」
そうやってみなみを連れてきたのは、出町柳の鴨川の河畔である。
「あ、これよくドラマで見る!」
川面に点々と飛び石があって、葵橋のそばには白鷺もいる。
「うちは上賀茂やから、まぁここからさらに上のほうやけどな」
桜の時期はえぇで、ともいう。
みなみが京都に来たのは修学旅行以来だが、こんなに楽しかった記憶は見当たらない。
どうやら。
一慶のお気に入りの場所らしい。
「うちはクサクサしたり凹んだりしたら、ようここでボケッとしとんねん」
河原に座るとみなみに箱寿司の折を渡した。