【完】『ふりさけみれば』

リクエストで一慶の馴染みだという梅田のバッテラ屋に寄って、二つばかり箱寿司を買うと、

「凹んでるみたいやから、どこぞ眺めのえぇとこでも行こか」

そうやってみなみを連れてきたのは、出町柳の鴨川の河畔である。

「あ、これよくドラマで見る!」

川面に点々と飛び石があって、葵橋のそばには白鷺もいる。

「うちは上賀茂やから、まぁここからさらに上のほうやけどな」

桜の時期はえぇで、ともいう。

みなみが京都に来たのは修学旅行以来だが、こんなに楽しかった記憶は見当たらない。

どうやら。

一慶のお気に入りの場所らしい。

「うちはクサクサしたり凹んだりしたら、ようここでボケッとしとんねん」

河原に座るとみなみに箱寿司の折を渡した。



< 27 / 323 >

この作品をシェア

pagetop