【完】『ふりさけみれば』
東京のアナウンス部に隣接する報道センターのフロアは、蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
「兵藤一慶がバイク事故に遭った」
というニュースが駆け巡っていたのである。
「容態は?」
「心肺停止で搬送ってのが消防からの回答です」
仮にも。
他局とはいえ、公共放送の今年の大型ドラマの原作者である。
「これはデカいヤマが来たぞ」
報道センターには、次々と情報が来る。
「搬送先は?」
「横浜です。山下町の総合病院」
「すぐ山下町に飛べ」
「機材は?」
「社会部の記者が張り付いてるからあると思います」
「おい松田」
恵里菜が呼ばれた。
「このこと橘みなみは知ってるのか?」
「知ってると思います」
「来るかな」
「臨月ですから、そこは何ともいえないです」
胸中、
(みなみのことだから、行ってるかも)
恵里菜によぎった。