【完】『ふりさけみれば』
山下町の総合病院には既に、みなみと休日の梨沙が駆け付けていた。
廊下の椅子にはお腹のすでに大きなみなみが座り、不安を隠せない顔で、泣きそうになっている。
梨沙は脇で、
「大丈夫、兵藤先生は強いから大丈夫」
励ますのが精一杯である。
恐ろしいばかりの静寂が、みなみを支配した。
その刹那。
ドアが開いた。
医師は、
「残念ですが」
言葉を最後まで聞かずに、みなみは中に飛び入った。
梨沙が後に続く。
ベッドには、白い布をかけられた一慶が、横たわっていた。
襟に少し泥がついていたが、顔はヘルメットで守られていたのか、ほとんど傷がない。
眠っているような顔である。
が。
明らかに生気がなく、肌も蝋のような色をしている。
たまらず梨沙が泣き出した。