【完】『ふりさけみれば』
梨沙は声を放ち、慟哭という単語そのままに泣いていた。
かたわらで。
みなみは涙をこらえていた。
が。
一慶が穏やかな相をしているのを見ているうち、涙はみなみの頬を伝い落ち、やがて覆われていたシーツに滴となって落ちた。
そこへ。
恵里菜が駆けつけた。
「…みなみ?」
恵里菜の方へは振り向かないまま、みなみは無言で首を横に振った。
その所作で。
恵里菜もすべてを悟ったらしい。
「…心肺停止って聞いてたから、まさかとは思ったけど」
それだけを呟くと、泣きじゃくる梨沙の肩を抱いて、恵里菜は部屋を出た。
廊下の遠くで、喧騒がする。
恐らく記者やカメラが来たのであろう。
しばらくして、
「…失礼します」
警察官が二人ばかり来た。
みなみは、その黒く長い髪を後にやって、
「お疲れ様です」
頭を下げた。
何らかの事情を聴取されるのであろうことを察したらしかった。