【完】『ふりさけみれば』
3 命あるもの
一慶のお別れの会、というのが企画された。
意外にも。
発起人は結崎なぎさであった。
「まだ先生にお別れをいってないから」
というので、ひっそり献花でもして終わるとみなみは思っていたらしいが、当日になってみると椅子が足らず、会場を一部変更するという騒動になった。
「大文豪ってはずではなかったのに」
スタッフが計算してみると、だいたい二百人近く参列していた。
中には。
一慶の書いた小説のファンだという女子高生モデルやバイクで繋がっていた仲間の俳優、上ヶ原の大学で同期だった野球選手、さらには清水焼の窯元の陶芸家…といった有名人たちがいる。
しかし。
椿寺の頃に近所でしょっちゅう通っていた定食屋のおばちゃん、いつもお持たせを買っていた和菓子屋の若旦那、あるいは懇意の文具屋の社長…といった身近な人がほとんどで、職種も年齢も雑多であった。
参列していた編集者の吉岡はるかもこの様子に、
「よく先生は金はないけどコネはあるっていってて、これだけ付き合いが広かったんですね」
みなみも顔ぶれの多彩さに、あらためて一慶という人間の本質を見たような気がした。