【完】『ふりさけみれば』
確かに。
みなみは一慶のことを心底から慕っていたようで、
「再婚はどうしますか?」
そう芸能レポーターに訊かれ、
「この世にカズより素晴らしい人がいたら」
とみなみは返した。
事実。
みなみの気持ちとしては。
産まれたばかりのみのりに、父親がいないのは可哀想だと考えていた面もあったらしい。
だが。
「兵藤一慶を超えるとなると大変ですよ。何しろ小説が書けて、陶芸も出来て、水墨画が描けて、書がうまくなきゃ超えられないんですから」
といったコメンテーターのセリフが、ハードルの高さを物語っている。
さすがに。
そうなるとみなみと付き合いたい…という強者はあらわれづらかった。
もっとも。
シングルマザーになったみなみはみなみで、託児所探しや仕事など、別の悩みを抱えていた。