【完】『ふりさけみれば』

確かに。

みなみは一慶のことを心底から慕っていたようで、

「再婚はどうしますか?」

そう芸能レポーターに訊かれ、

「この世にカズより素晴らしい人がいたら」

とみなみは返した。

事実。

みなみの気持ちとしては。

産まれたばかりのみのりに、父親がいないのは可哀想だと考えていた面もあったらしい。

だが。

「兵藤一慶を超えるとなると大変ですよ。何しろ小説が書けて、陶芸も出来て、水墨画が描けて、書がうまくなきゃ超えられないんですから」

といったコメンテーターのセリフが、ハードルの高さを物語っている。

さすがに。

そうなるとみなみと付き合いたい…という強者はあらわれづらかった。

もっとも。

シングルマザーになったみなみはみなみで、託児所探しや仕事など、別の悩みを抱えていた。



< 277 / 323 >

この作品をシェア

pagetop