【完】『ふりさけみれば』
みなみが恵里菜に見せたのは、箱におさめられた一慶からの手紙である。
「こんなに書いてたんだ?」
恵里菜が驚いたのも無理はない。
百通近くあるのである。
「カズは口でいうより文で書いた方が気持ちがストレートにしやすいからって、それで書いてた」
内容の一部を恵里菜に披(ひら)いた。
「…こないだは手袋ありがとう。ツーリング用に使わせてもらってるけど、指先が冷たくならないから便利で使い勝手がいい」
といった日常のやりとりから、
「…みなみのようにおおらかで太陽のような、温かい女性のほうが、自分のようにチマチマした神経の細い人間には適(あ)っているのかも知れない」
という本心を吐露したものまで、実に様々である。
「これはみなみでなくてもキュンキュンするって」
中でも。
みなみが大切にしていた一通には、
「…みなみが隣にいてくれると、正直なところ、文学賞も印税も、みなみを前にすれば価値の低い物のように思われて、みなみがいてくれたなら作家として仮に大成できなかったとしても、それよりかけがえのない大切な存在を得た幸福者と断言できる」
そこまで一慶は、みなみを大事に扱っていた…ということなのであろう。
「こんなこと、いわれてみたいなぁ」
恵里菜はみなみが羨ましく感じられた。