【完】『ふりさけみれば』

その頃。

恵里菜はというと、フリーアナウンサーになろうかどうか迷っていたらしかった。

理由は力ではない。

むしろバラエティの番組でのみずからの扱いについてである。

単に進行したいだけなのに、

「お前、案外かくれ巨乳やもんな」

などとセクハラまがいの雑言を浴びせられたりしていたのである。

もちろん。

みなみには打ち明けられない。

「私なんか御神木だとか、人間冷蔵庫とか言われたりしてたからね」

みなみもそうやって言われていたのは知っているが、しかしみなみの場合は一慶に感化されて身に付いたであろう明るさがあって、そうやって笑い飛ばすことがあった。

それだけに。

「もしかしたらみなみには分からないかも知れないな」

などと考えてしまうこともあったようで、恵里菜は言い出せないまま日を過ごしていたようである。



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