【完】『ふりさけみれば』

ほぼ同じ時期であるが。

みなみの元に吉岡はるかが来たことがあった。

「実はこのたび」

兵藤一慶の言葉をまとめた本を出す企画がある、と吉岡は言った。

「需要あるんでしょうか?」

みなみは怪しんだが、

「編集長は売れると思ってます」

この言い方は感情を表に出さない吉岡らしい。

「まぁプロが売れるって太鼓判を捺すなら、大丈夫なんでしょうけど」

「では、ご遺族としてはOKということで?」

「はい」

ご遺族、という単語が、あらためて一慶がいない現実をみなみに感じさせた。



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