【完】『ふりさけみれば』
一慶の語録が出版された。
当初は電子版だけの話で、みなみもタブレットで読んだ。
「人は食って寝て交尾したら終わり」
などと普段からの口癖がほとんど並んで、中には、
「どうしてこう言ったんだろ」
などと、ふとみなみの脳裏に引っ掛かるような言葉もあった。
巻末に近いページに、
「こんなこと言ってたっけ?」
というような一言をみなみは見つけた。
それは、
「世の中には例えば親や上司の選択、あるいは思いもかけない事故など自らの力だけでは、どうしようもないものがある」
というものであった。
よく「後悔したかて始まらんやろ」と口癖のように言っていた一慶らしくないような言葉にみなみには映った。
一慶はどちらかというと切り替えの早い人間で、宝くじが外れたときには換金した六百円で和菓子を格安で買って、
「こっちのほうが当たりなんちゃうか?」
とみなみに土産として渡したこともあった。