【完】『ふりさけみれば』
そんな一慶が、である。
「どうしようもないことがあるって…」
切り替えが早い一慶でさえどうにもならなかったこととは、どんなことなのか。
当初は広島の実家のことを指すのかと思ったが、一慶はそういえば進路を変えて乗り切っている。
しばらく、みなみは沈思した。
気づいた。
「もしかしたら、愛ちゃんのことなのかな?」
確かに。
一慶が愛の存在に気づいたとき、すでに対処できるであろうタイミングはなかった。
が。
それは一慶ばかりが悪いとは言い切れず、むしろ何も告げずに愛を産んだかつての恋人も、産むという選択をしたことをみなみは責められない。
ひょっとすると。
そこを一慶は、具体的ではないがあらわしたかったのだろうかと、みなみは考え至った。