【完】『ふりさけみれば』

6 真実


一慶の語録は電子の書籍で初め出されたが、ダウンロードが意外に多くすぐ文庫化された。

これにはみなみだけでなく、

「あの兵藤センセの毒舌が本になるとはねぇ」

と、たまに逸見に来る結崎なぎさも目を見張った。

「私は読める空気の話が好きだけどなぁ」

例の「読める空気は目がチカチカする」というあれである。

しかし。

結崎なぎさは言った。

「でもいちばん気を遣ってたのは、兵藤センセだったような気がする」

言われてみれば。

みなみは一慶といた間、一慶に傷つくようなことを言われたことがほとんどない。

それは。

一慶が人一倍みなみを傷つけまいとしていた証であり、剛毅に振る舞っているようで、実は端々にまで心や目を配る、誰よりも神経の細かい面を持っていたように思われた。

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