【完】『ふりさけみれば』
8 一慶の気持ち
久々の京都は雨である。
懐かしい八条口のターミナルでタクシーに乗り込んだみなみは、かつて愛が過ごしていた施設に向かった。
場所だけは変わったらしく、今の住所は岩倉の実相院から少し奥まった、溜池のほとりに移っている。
前もって電話で日時は取り付けてあるが、例の、
「髪の毛一本遅れて行く」
というのをみなみは知っていたから、あえて五分ほど待ってからタクシーを降りた。
園長は、
「わざわざ東京から来てくれはって」
と快く出迎えてくれたが、
「それにしても兵藤先生の奥さんが、女子アナやったってのはびっくりでした」
と、みなみのことについては知らなかったらしい。