【完】『ふりさけみれば』
つまり。
その名字が一慶の元カノと一致し、それが一慶が愛を元カノの娘と思い込んだきっかけでもあった。
単なる偶然から。
一慶は愛が実の娘と勘違いした…ということになる。
「けど兵藤先生はそうした仔細は一切深追いせんと、愛ちゃんに文字から算数から、よういろんなの教えてはりましたで」
そういえば。
愛も筆跡はどちらかといえばきれいな方で、今どきの女の子には珍しく、無地の便箋でも曲がらずに縦書きの文章が書ける。
「せやから、別に血がどうこうっちゅうより、はじめから兵藤先生は愛ちゃんを大事にしてはって」
と園長は言い、
「よう言うてたのは、うちにはこの子を恥ずかしくない人間にしなあかん責務があるって」
それは、生まれてくる前にみのりに対し、名前から何から何まで事細かに考えていた一慶らしい行動であったといえる。