【完】『ふりさけみれば』
タクシーを横付けし、会計を済ませ、みなみは事務所が入ったビルのエレベーターに乗ると、4階のフロアまでたどり着いた。
ノックをしたが、反応はない。
番号に間違いはない。
ドアを開けた。
そこには一慶が、奥の長椅子でのんきに本を頭にかぶりながら、静かに寝息を立てて昼寝をしていたのである。
みなみは脇の椅子に腰掛け、一慶が目覚めるのを待った。
やがて。
しばらく──わずか数分であろうが──して、一慶が眠りから目覚めた。
「…橘くん」
「先生…」
みなみは何かプッツリ切れたのか、堰を切ったように涙をこぼしている。
「そんな泣かんでも…大丈夫やって」
いつもの一慶である。
「見ての通りピンピン生きとるがな」
一慶は苦笑するより他なかったらしかった。